大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

那覇地方裁判所 平成5年(行ウ)13号 判決

那覇市樋川一丁目三番四七号

原告

大城寛栄

右訴訟代理人弁護士

座喜味吉信

那覇市旭町九番地

被告

那覇税務署長 上間常秋

右訴訟代理人弁護士

竹下勇夫

右指定代理人

白濱孝英

米倉俊一

石原淳子

屋良朝郎

松田昌

仲大安勇

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和六三年一二月二六日、原告の昭和五九年分の所得税についてした更正及び重加算税の賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件処分の経緯等

原告の昭和五九年分の所得税について、原告がした修正申告、これに対して被告がした更正(以下、「本件更正」という。)及び重加算税の賦課決定(以下、「本件賦課決定」という。)並びに国税不服審判所長がした審査裁決の経緯は、別表記載のとおりである。

2  本件処分の違法事由

しかし、被告がした本件更正(審査裁決により維持された部分。以下同じ)のうち、原告の修正申告に係る所得金額一六八万八五〇〇円を超える部分は、原告の所得を過大に認定したものである違法であり、本件賦課決定(審査裁決により維持された部分、以下同じ)も所得を過大に認定した本件更正を前提とするから違法である。

よって、原告は、本件更正及び賦課決定の取消しを求める

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認め、同2の主張は争う。

三  被告の主張(本件更正及び賦課決定の適法性)

1  原告の昭和五九年分の所得金額(土地等に係る事業所得等の金額)は原告の修正申告に係る所得金額一六八万八五〇〇円に八〇〇万円を加算した九六八万八五〇〇円であるから、本件更正は適法である。すなわち、原告が別紙物件目録記載の土地(以下、「本件土地」という。)を訴外當銘隆夫(以下、「當銘」という。)に売却した際の売買代金につき、原告は一七五〇万円として修正申告したが、右売買代金は右金額に八〇〇万円を加えた二五五〇万円である。

2  原告は、本件土地の売買代金が二五五〇万円であるにもかかわらず、一七五〇万円とする虚偽の契約書を作成したり、同額の領収証を発行するなどして、所得税の課税標準の計算基礎となるべき事実を隠蔽又は仮装し、右隠蔽又は仮装したところに基づいて修正申告をしたのであるから、国税通則法六八条一項の規定に基づき、本件賦課決定は適法である。

四  被告の主張に対する認否

全て否認する。

本件土地の売買価格は一七五〇万円である。

第三証拠

一  原告

1  原告本人

2  乙第一号証、第一七号証、第一八号証及び第二三号証の一ないし三の成立(第一号証、第一七号証及び第一八号証については原本の存在及び成立)は認める。第二〇号証、第二一号証、第二二号証、第二四号証の一、二(第二一号証については原本の存在及び成立)は知らない。第七号証の一、二は原本の存在は認め、原本の成立は否認する。第一九号証の原本の存在及び成立は知らない。ただし、同号証の原告は名下の印影が原告の印章によることは認める。その余の乙号各証については原本の存在は認めるが原本の成立は知らない。

二  被告

1  乙第一ないし第六号証、第七号証の一、二、第八ないし第二二号証、第二三号証の一ないし三、第二四号証の一、二

2  証人當銘隆夫、同中山均

理由

一  請求原因1の事実(本件処分の経緯等)は、当事者間に争いがない。

二  本件の争点は、本件土地の売買代金額が原告主張の一七五〇万円か、被告主張の二五五〇万円かという点であるから、これについて判断する。

1  証人當銘隆夫の証言、右証言により真正に成立したものと認められる乙第二〇号証、右証言によりその成立並びに原本の存在及びその成立の認められる乙第一九号証、第二一号証、証人中山均の証言、右証言により真正に成立したものと認められる乙第二二号証、成立に争いのない乙第二三号証の一ないし三、その成立並びに原本の存在及びその成立に争いのない乙第一七号証、第一八号証によれば、本件土地の売買契約の経緯について、次のとおり事実を認めることができる。

(一)  原告と當銘との間で原告所有の本件土地を代金二三〇〇万円で當銘に売却し、手付金を六〇〇万円とする合意が成立したので、昭和五八年一二月二二日、中山興和司法書士事務所において、同事務所補助者中山均(以下、「中山」とうい。)らの立ち会いの下、売買代金を二三〇〇万円とする売買契約書及び當銘の銀行借入の便宜のため売買代金を二四〇〇万円とする売買契約書(乙第一九号証)が作成され、當銘は原告に対し手付金六〇〇万円を小切手(乙第七号証の一、二)で支払い、残代金一七〇〇万円は昭和五九年二月二日に支払うこととなった。そして、當銘が沖縄銀行に勤務していたところから原告の提案により、右売買代金二三〇〇万円の契約書を便宜上同行南風原支店に一時預けることとした。翌二三日受付で、本件土地について當銘名義で所有権移転請求権の仮登記が経由された(乙第二三号証の一ないし三)。

(二)  昭和五九年二月二日に當銘は残代金が用意できず、右支払の期日は二日後の同月四日に変更されたが、右当日、當銘は預金を担保とする銀行からの借入手続に手間取り、原告との約束の場所に一時間余り遅刻し原告が立ち去っていたので支払ができなかった。しばらく後に原告は、契約どおりに売ってほしいと連絡してきた當銘に対し、契約違反であるから契約を解除したうえ手付金六〇〇万円も没收する。ただし売買代金を三〇〇万円増額し二六〇〇万円とするならば売却すると述べたので、當銘はやむなく原告の右申し入れを承諾した。

なお、右同日、原告は沖縄銀行南風原支店に出向き、売買代金を二三〇〇万円とする売買契約書の交付を求め、同支店は當銘に電話連絡してその承諾を得たうえ、原告にこれを交付した。

(三)  同月六日、沖縄銀行与儀支店の応接間において當銘は原告に対し現金で二〇〇〇万円を支払ったところ、原告が當銘に五〇万円を返還し、結局残代金として一九五〇万円の支払がなされ、その際、原告は當銘に対し売買代金を一七五〇万円とする売買契約書(乙第一八号証)への署名押印を求めてこれを得、更に金額欄一七五〇万円の領収証(乙第一七号証)を作成して同人に交付した。

2  原告は、当公判廷において本件土地の売買代金は一七五〇万円であり、昭和五八年一二月二〇日に手付金五〇万円が、昭和五九年二月六日に残代金一七〇〇万円がそれぞれ當銘から原告に支払われたと供述しているが、これは前記1の認定に沿う証人當銘隆夫及び同中山均の各証言と全く相いれないものである。

しかしながら、以下の理由により、右各証言の信用性が高く、原告本人の右供述は信用できないものと判断する。

(一)  當銘は、本件売買契約の約一年後である昭和六〇年一月八日に、税務署が通常実施している確定申告前における買受人に対する事前照会文書において、本件土地の売買代金は二五五〇万円であることのほか、代金支払方法、支払場所等につき具体的に回答している(乙第二一号証)。右回答書は原告が確定申告する以前になされたものであり、當銘がこの時点であえて虚偽の事実を申告する理由は見出し難い。

そして、同人は右回答書以来、平成五年一〇月一五日の大蔵事務官からの事情聴取においても(乙第二〇号証)、当公判廷においても、一貫して同内容の供述をしている。

(二)  また昭和五八年一二月二二日、沖縄銀行与那原支店において、當銘がそれまで自己の親族の名義でしていた定期預金(「トウメチズコ」名義で二〇〇万円、「トウメノブヒコ」名義で二〇〇万円、「ツカヤマシゲコ」名義で一〇〇万円、「トウメタカオ」名義で一〇〇万円)を解約して、額面六〇〇万円の沖縄銀行与那原支店長振出の小切手を用意したことは、客観的証拠である乙第二ないし第六号証、第七号証の一、二(いずれも、弁論の全趣旨により、写しの成立並びにその写しに対応する原本の存在及び成立が認められる。)により認められる明らかな事実である。右小切手の振出日が本件土地につき前記仮登記手続をした日の前日であり、また當銘は銀行員でありこのような多額の金員を個人的に用意するのは日常的なことではないのであるから、右明白な事実は、本件土地売買にかかる手付金として六〇〇万円を支払ったとする同人の供述の真実性を裏付けるものである。

(三)  さらに、客観的証拠である乙第八ないし第一六号証(いずれも弁論の全趣旨により、写しの成立並びにその写しに対応する原本の存在及びその成立が認められる。)によれば、當銘が昭和五九年二月三、「トウメユウケン」名義の定期預金一五〇万円を解約し、翌四日、當銘由憲名義の郵便局の定額貯金一〇〇万円を解約し、その他沖縄銀行与那原支店から當銘憲二名義で二二〇万円、當銘由憲名義で一五〇万円、當銘武士名義で一五〇万円、上江洲安子名義で二五〇万円の各手形貸付を受ける等して同行同支店の口座に入金し、同日、右口座から一一五〇万円を引出したこと、更に同月六日右口座から一〇〇万円を引出したこと、當銘の友人である城間宏が同日定期預金を担保に沖縄銀行松川支店から二〇〇万円を借入れたこと、以上の事実が明らかに認められる。

右明白な事実は、當銘の父當銘由憲から五五〇万円、友人城間宏から二〇〇万円を借り受けた旨の當銘の当公判廷の供述と相まって、本件土地売買の残代金として昭和五九年二月四日に一七〇〇万円を用意し、同月六日に二〇〇〇万円を用意したとする同人の供述の真実性を裏付けるものである。

(四)  証人中山の証言内容は、証人當銘のそれと大筋において一致しており、特に、同人が昭和五八年一二月二二日に作成したメモ(乙第二四号証の一、二)に、代金二三〇〇万円(内金六〇〇万円)との記載があることは、両名の供述内容の真実性を裏付けるということができる。

(五)  なるほど、売買代金を一七五〇万円とする昭和五八年一二月二〇日付け売買契約書(乙第一八号証)、昭和五九年二月六日付け金額が一七五〇万円の領収書(乙第一七号証)が存在する。

しかしながら、右各書証の作成経過は、前記1(三)で認定したとおりであり、契約の最終段階で原告との紛議を避け、とにかく本件土地の所有名義が自分に移転すればよいと考えて、原告の言うがままに原告の用意した売買契約書の買主欄に署名押印し、原告作成の領収証を受領したとの當銘の証言内容は、前記1(二)で認定した事情に鑑みると、充分首肯するに足りるものである。

3  以上のとおりであるから、本件土地の売買代金額は二五五〇万円であり、原告は昭和五八年一二月二二日六〇〇万円を、昭和五九年二月六日一七五〇万円を受領していることが認められる。従って、本件更正は適法である。

三  次に、本件賦課決定について判断するに、原告が前記認定のとおり売買代金を二五五〇万円であるにもかかわらず一七五〇万円とする契約書を作成し、同額の領収証を発行したことは、国税の課税標準の計算の基礎となるべき事実の隠蔽又は仮装に該当し、原告は右仮装したところに基づいて修正申告したのであるから、国税通則法六八条一項の規定に基づく本件賦課決定は適法である。

四  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲葉耶季 裁判官 生島弘康 裁判官 伊元啓)

物件目録

(一) 所在 那覇市首里大名町二丁目四三番二

地目 宅地

地積 二六六・五八平方メートル

(二) 所在 那覇市首里大名町二丁目四四番二

地目 宅地

地積 六・三九平方メートル

(三) 所在 那覇市首里大名町二丁目四四番三

地目 宅地

地積 六二・八九平方メートル

別表

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例